『枕草子』は清少納言が中宮定子の周辺で見たこと・聞いたこと・感じたことを書き留めた随筆で、全四百段あまりから成ります。物語が時間を流して話を運ぶのに対し、随筆は時間と関係なく「あるときハッと心が動いたかたまり」を一つ書いてやめるのが本質です。だから冒頭の第一段が何を書いているかが、この作品全体の読み方を決めてしまいます。第一段は春・夏・秋・冬の順に、それぞれ「いつがいちばん良いか」だけを宣言します。春は明け方、夏は夜、秋は夕暮れ、冬は朝。見逃してならないのは、どの季節でも最も良い時分を、人が一番に思いつく定番の時刻から半歩はずして語っている点です。春なら桜の盛りではなく明け方の空、夏なら月そのものではなく暗い夜の蛍、秋なら名月ではなく夕暮れてゆく山際と雁、冬なら雪ではなく霜と、火を急いで起こす朝の所作です。これは「人が集まっている最も美しい瞬間より、人が引いたあとの気配のほうが趣がある」という判断であり、後段に連なる「をかし」の定義そのものになります。学習の目標はこの段を暗誦することではなく、清少納言が何を撮り何を撮らなかったかから作者の美意識を推読できることにあります。共通テストではこの撮り方の癖を、内容真偽と理由説明で問われます。