歌物語の二段構造(散文が状況を立て、歌が心情を言い切る)を、東下りの三場面で文末表現から読み解く
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頻出度 ◎。第九段は「むかし男ありけり」で始まり、京を離れて東国へ下る旅が描かれますが、話の中心は東国そのものではありません。信濃の浅間の岳に立つ煙を見て都を思い、三河の八橋でかきつばたを見て「都いとこひしくおぼえけり」と詠み、駿河の宇津山では道の心細さを言い、武蔵野の隅田川で京に思ふ人のことを言う——旅の景色が都の記憶を呼び戻す、という一つの方向だけで組み立てられています。
ここが物語文学の読み方の核心です。散文は歌が詠まれる状況をつくり、歌が心情を言い切る。作者の感情は散文の叙述では直接語られず、歌に引き渡されます。現代語なら「旅は寂しく、都が恋しかった」と一文で書けます。しかし本文は「かきつばたといふいつもじを、くのかしらにすへて」と花の名前を頭字に置く技法を指示し、その技の中でしか心情を語らせません。訳を暗記すると落ち、状況を辿れば取れる設問がここから出てきます。
もう一点、この段は文法の実験場です。「〜ぬ」(完了・帰着)、「〜たり」(存続)、「〜らめ・む」(推量)、「〜にしもあらず」(部分否定)、「なむ〜」(係助詞の強調)、「見れば〜けり」(已然形の直後発見)が短い段に詰まっています。h2 で積んだ助動詞が、物語の文の中で実際にどう働くかを見るのが本課です。